第一書房から南島文化叢書の一冊として、窪徳忠『中国文化と南島』が出ている。昭和五十六年に初版が出ているが、わたしの読んだのは、平成七年の訂正二刷である。
　沖縄県地方に日本の古文化の投影をみるという柳田国男の考えに従って出発した、かつての「沖縄学」。これに対し、台湾、中国、朝鮮からの比較資料が全然使用されていないという批判が起こった。著者は、琉球王国が中国と密接な関係にあったところから、実地調査に基づいて、中国と沖縄の文化の関係を探った。それが本書である。
　奄美群島は琉球文化圏に属していると聞いたことがあったが、実際には異なる点が多々あると知った。なかでも注目すべきは、道教的信仰が沖縄県地方だけに限られるという点だった。唐栄（久米村）には、かつて中国系の人々が渡来し、中国的な神々が多く祭られている。そのなかには、道教色が濃厚な天尊もある。また、台湾の媽祖廟にも触れていて、中部以北では媽祖信仰が、それ以南では大爺または瘟爺という疫病神信仰がさかんだという。媽祖関係でわたしが教えられたのは、媽祖信仰が仏道二教にかかわっているということだった。以前わたしが長崎を訪れた時、墓石の脇に「土神」と刻まれた石碑のある墓があり、これは何だろうと疑問に思っていた。それは日本人の墓にも多く見られたのだが、その背景についても知ることができた。
　著者は、「七、むすびにかえて」で次のように言う。

以上、沖縄県地方に伝えられ、受容された中国的習俗や信仰のなかから、従来「道教からきた」といわれていたもののいくつかを取上げ、中国との比較をした上で、奄美諸島地方との対比を試みた…[中略]…結果、それらの習俗や信仰の多くは、従来の通説に反して必ずしも「道教からきたもの」ではないこと、沖縄県地方と奄美諸島地方とは…[中略]…かなり相違する…[中略]…一言でいえば、沖縄県地方がより中国的なのに対して、奄美諸島地方がより内地的とまとめられよう

　中国と一口に言っても、道教のことはなかなか分かりにくい。媽祖について知りたいと思って読み始めたのだが、道教研究者として知られる著者のこの書物は、多くのことを教えてくれた。『沖縄一千年史』とその引用者の批判を展開するところから始まっているが、中国文献に精通している著者が、実地調査を重ねて出来上がったものだけに、非常に説得力があった。こうした研究は、時が経っても価値を失わないものだ。写真が豊富なのも貴重だと思った。